„in principio erat mens“-最初にアイデアが生まれる。そして夢の実現のためには多大な忍耐といくばくかのファンタジーも必要です。アイデアは、昼下がりにまどろんでいるとき、森をジョギングしているとき、あるいは良き赤ワインを手にした夕べに突然やってきます。ほとんどのアイデアは私の生活に長年寄り添います-優れた赤ワインが成熟するように、それは常に良きものへと変質してゆきます。
ある日、私は鉛筆を手にして考えを整理します。そして1つのコンセプトが誕生します。この時計は実現できるのだろうか? 時代に適合するだろうか? 何が実現の際の最も大きな課題となるだろうか?
それはあたかも作曲のように、一つ一つの音符が調和し、最終的には一つのシンフォニーが完成するように。過去にはスケッチやメモを必要としましたが、今はほとんどの場合、そのままコンストラクションプログラムをスタートさせます。作業机で日常の作業の合間に、ときにはソファーで我が子を膝の上に抱えながら、私は最初にひらめいたフォルムを形にして いきます。そうして一年も経つと200余りの部品がそれぞれに調和しはじめ、すべてのコンセプトが明らかになってゆきます。ここまで来ると私の秘密を守ることが難しくなります。なぜなら私はこの時計に物理的な形を与え、それを手にすることを我慢できなくなるからです。
伝統的に最初はムーブメント、つまり時計構造の骨格が製作されます。CNCによる幾度にもわたるテスト切削加工の後には、私たちは短時間で荒削りした歯車のブリッジとベースプレートを製作することができます。この点においては、ほとんどの部品を自身で製作していることが功を奏します。これによって注文から納品までのプロセスを短縮することができるのです。
ブリッジとプレートは、そのタイプによって大変な手間をかけて手で彫が入れられ、研磨と仕上げ磨きの手がかけられ、金メッキ仕上げをする前に銀によって装飾されます。ここでは私たちは18世紀に完成された「銀のしごき密着」という手法を再発見し、それをさらに改良して行っています。ある強さの豚の毛のブラシによって銀と塩の混合粉末を真鍮の部品にしごきながら密着させ、皮のようなざらざら感のある表面仕上げがこれによって行われます。この手法による光沢と彫り込みとのコントラストの 相性は、その他の手法では得ることができないものとなっています。
レバーなどの平面的な部品とバネは、薄鋼板を張り合わせたものに切削加工します。鍛錬と計測を交互に行った後には、部品の仕上げである「フィニッシュ」という主工程作業が続きます。すべての面と角は「美しく正確に削り取られ」、研磨され、仕上げ磨きされ、真鍮部品は金メッキ加工されます。ここでの作業は数百年前のそれと変わることなく、私たちはここの部分だけで、これまでの作業の5倍以上の時間を必要とします。
同時に回転する部品、例えばビスやシャフトなどは、私たちは全ての回転動作を顕微鏡の下で確認し、既製品であっても完全なフォームとなるまで加工作業を加えます。ビスについても私たちは非常に高いクオリティ精度を要求します。全てのビスを手作業で錫研磨することによってのみ、完全に平坦なビスの表面を作り出すことができるのです。素人の目には違いが分からない部分においても、私たちは他の高級時計ブランドよりも何倍もの時間をかけることを惜しみません。
歯車や小歯車についても、いくつかの重要なものは工房で一から作られ、歯を削る作業やそれに続く歯側の研磨を行いますが、一部の歯車は素材を購入し、それを加工します。小歯車は一つ一つ時間と手間をかけて前額面光沢工具とグラスヒュッテン式の刺入器でフィニッシュ加工され、歯車の脚は円錐形に削られ、つや消し加工され、金メッキ加工されます。 キャリバーⅤの歯車はすべてゴールドに仕上げられています。大きな巻上げ用の歯車は、輝かしいサンバースト仕上げが施されています。
とりわけ工房独自の特別なポイントは、多種多様な18金とプラチナ素材のケースとストラップバックルまでも、私たちは素材の選択から仕上げまで自身で行っている点です。これには、金の鍛冶職人技術と精密機械技術が融合する必要があります。
2006年から私たちは自身で構造した金製のムスターシュアンクルも製作しています。ベリリウム青銅によるラング&ハイネ・デザインのテンプは、当然のことながらブレゲ式のらせんを描くように成型され、調和したスウィング形状を実現しています。
すべての部品が仕上げられ、それぞれのフィニッシュ加工が施されると、その後にはプロトタイプの仮組み立て作業が続きますが、これは本来の時計職人にとっての一つの挑戦です。ここで一つ一つの部品が調整され、宝石や刻印がプレスされ、歯車の遊びが調整されます。いくつかの構造的な欠陥はここですべて補正され、いくつかの部品はさらに加工され、あるいは新たに作成し直されます。またここでは、後に続くシリーズの組み立てのために、新しい工具や組み立てのための作業補助器具も考案され、製作されます。
最終的に、長き絶え間ない努力の後に、私たちはスウィング・セレブレーションを、つまり新しい時計に生命を吹き込む最初の稼動を祝います。私たち工房のチームすべてが誇りを感じる「目」のためのお祭りです。この頃、最初の部品製作という「礎石祭」から1年と半年が過ぎたあたりでは、もちろんメッセでのプレゼンテーションも視野に入ってきています。
しかし、その前に私たちは装飾の追及を行わなければなりません。腐食防止加工した針のコンビは、万力の上で削りの作業が行われ、顕微鏡を見ながらの彫が施され、研磨と仕上げの磨きが行われ、ブルー化や円筒形の押し出し作業が行われます。
エマイル陶板や銀製の文字盤にはフーチング加工が施され、ようやく私たちはムーブメントをケースに収めることができるのです。そして繊細に加工されたアリゲーターストラップとバックルが取り付けられ、ここではじめて時計が手首に収まります。
この日、残りの時間に私たちは作業をしませんが、やることは沢山あります-お互いの肩を叩き合い、満足とともにスパークリングワインのグラスを傾ける。
なぜなら一つの小さな奇跡がここには訪れたのですから・・・
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